ドロシー・L・セイヤーズ著。この作者を知っていること自体が本格推理マニアってことを最近知った。当たり前のように学生時代読んでいたんですがねえ。翻訳小説で悪文だー悪文だーと騒いでいたシリーズではあるが、この本に限ってはきれいな文体で翻訳者が慣れてきたせいなのか、私がオトナになったのか。

これはピーター卿シリーズの中休み編。ピーター卿の話をある程度読んでおくのをオススメするが、知らなくても楽しめる。

ピーター卿(貴族で探偵)がある事件で救って求愛中の女流推理小説家ハリエットがケンブリッジにある母校のカレッジへ、学寮祭のために訪れた。そこで悪質な嫌がらせが発生したため、カレッジの学寮長より犯人を突き止めるよう依頼を受けることとなった。犯人は内部犯以外に考えられないが、はたして見つけられるのだろうか。

第一次世界大戦後のイギリスを舞台とした小説ではあるが、知識階級における女性の微妙な地位や、大学を卒業した後に大学訪れた際のある種の感傷なんぞは、今でも十分通じる女性ならではの表現がすばらしい。書評で30歳ぐらいの女性が読むと実感できるというのはまさにこれ。

推理小説としては推理に重きを置いていないわけではないが、人間ドラマがあまりに素晴らしくて、つい目線がいかずに残念な評価をえてしまいそうになるが、犯行動機はアンチミステリであり、この痛烈な批判はぜひとも推理小説好きなら一読を勧める。

カレッジが舞台となっているため、知識階級の会話に必需品!古典の引用がいっぱいで翻訳者泣かせな文体だ。注釈がついているので、読者もがんばれ(笑)

この作者が気になったら名作と誉れ高い「ナイン・テーラーズ」をぜひとも。これもピーター卿シリーズの一品で、これ一作で読みきり、大抵どの図書館にも置いてある。

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