法月 綸太郎の久々長編本格ミステリ。2005年度「このミステリがすごい」大賞を取った名作だ。

この人が書く同姓同名の探偵が活躍する話は、エラリー・クィーンを本歌取りとした、父ちゃんが警部さんで本人は推理作家という設定で、トリックを重視した重厚なミステリである。

今回は遺作となった美術品を巡る殺人事件から過去の真実を探り当てるという話。謎が解明されたと思ったら、また謎になり底に沈み、最後に浮上して、事実を重ねて推理するという、ミステリとしてあるべき姿を読ませてもらった。もちろん、彫刻という3次元の美術品が絡むだけに薀蓄もあるわけだが、それは推理小説の楽しみを妨害するほど深くなく、でも浅く洗うものだけではない絶妙なブレンド具合で読ませてくれる。

こっからは個人の趣味になるのだろうけれど、クィーンもそうだが「この証拠と推理では、犯人はこの人しかおらんよねえ」という論理的な推理で犯人を割り出すのが、この作風の醍醐味であるのが分かっていても、私は少々読後感がよくない。なぜだろう?話の流れにはすごく感動しているのに。推理小説で人気が出やすいのはシャーロック・ホームズ張りの謎解きのハデさであり、驚いてくれる観客(ワトソン役とかね)に魅力があるとかであり、論理的な謎解きで読者に現実を突きつけるタイプではないのだ。この作品は後者になる。

多分に純文学を読んだときの居心地の悪さと相通じるものがあるように思われるので、時々読む分には頭の引き締めによろしいかと。

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