薄い本なのに結局2日間かかってしまった。ご存知、三島由紀夫の作品。

数年前、フジテレビ系列の深夜番組で「文学ト云フ事」という純文学紹介番組があった。ここでは文学作品のハイライトを映画の予告編のようにして映像化し、あらすじと人物紹介を間に挟むという構成だ。

その紹介された作品の中に《美徳のよろめき》があった。
ハイライト映像がそらーもう、深夜番組じゃなきゃ無理でしょーという映像で、すごく印象深い。男女が裸で机を間に食事をしている絵えである。もちろん、白いカーテン越しの影絵だが。

登場人物で名前を与えられているのは主人公の節子、息子の菊夫、愛人の土屋、友人の与志子など数名。旦那さんは「良人」(これまた懐かしい漢字だ・・これで、「おっと」と読む)となっている。
あらすじを書くと身もフタもなくなるが、有閑夫人の節子は結婚する前に一度だけキスした土屋と精神的なお付き合いをしたくなり、何度も逢引をする。その間に不貞の関係となり、良人へウソを付くことを覚えたり、恋の駆け引きをしてみたりと冒険をするのだった。

これを審美的に文章で表現したと考えればいいかと思う。

これがまた絶妙な日本語で、こんな表現方法もあったかと目を見張る。また、この有閑夫人がただのヒマをもてあましているお金持ちの夫人というよりは、世間を知らない純粋な女性で、率直な感情を発露し、赤裸々に考え、惑う姿はとても美しいし、共感できる。

愛人の土屋も節子を愛しているには愛しているが、結婚しようとかそういう考えはなく、女性としていとおしい存在として見ている向きがある。紳士的な振る舞いをしたらんとするがゆえに、結果として優柔不断にみえてしまう優男というべきか。

三島の考え方として、女は恋情へ一途に、男は志に殉ずるのを美とするものがあるようで、これも軽やかな作品ながら、端々に感じることができる。

今書かれる小説がクッキーならば、この小説は抹茶シフォンケーキと思って食べたら、スポンジの間に濃厚な生チョコが入ってるというようなコッテリさがあるので、消化するまでに時間がかかる。これぞまさに小説の醍醐味だ。貸してくれたタユタさん、ありがとー。

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