今の会社に入社した際に義務としてビジネス書(課題図書)を読むことを言われた。2冊貰って今や部屋の片隅でホコリを被っている。

活字中毒の私がかくも放置する理由はただ一つ、面白い面白くない以前に文章がダメなのである。論文なのが悪いのかと思ったが、法学部の大学院生の論文が面白く読めるのだから、論文というジャンルのせいではない。興味がない分野でも読めるはずなのに・・・と思えば原因は、やはり文章力がない上に人を嫌がおうでも自分の意見に賛同させようという押し付けがましい意思が不快感を催すのだろう。

さすがに何も読まないのはまずいかもしれないと思い、手に取ったのが《日本永代蔵》。日本の経済小説の原点といわれる古典小説である。もちろん現代語訳だが、これが面白い。最近のビジネス書よりはつまらなくないのだ。確かに読む気は他のに比べるべくもないが、少なくともこれだったら金を払ってもいい。課題図書ではないがビジネス書。

商人として守るべき筋やら習慣が書かれており、更に私の好きな隠喩やら典故や引用盛りだくさん。漢文をよく読んでいるような文章が見受けられるので、おそらく中国のレトリックからの影響がある。その単語でどのエピソードから引っ張っているか分かることで、エピソードを思い出して更に話を深める。これが「教養がある」という部分になるのだなと思う。いわゆる内輪ウケに近いのだが、これがビジネス書といわれるものには少ない。私にしてみると「潤いがない」のだ。

典故や引用は今では「死語」というもので、以前は読者が知っていたものが今では殆ど知らない。現代語訳は文語体を翻訳するだけでなく、死語の解説までも補っている。

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